2006年11月13日

それこそ夕日を見るような…… #カズオ・イシグロ『日の名残り』

4151200037『日の名残り』
カズオ・イシグロ Kazuo Ishiguro
訳 土屋政雄
早川書房 2001-05

by G-Tools

こまごめ値★★★★★

 『日の名残り』は、今年の翻訳本の話題作『わたしを離さないで』のカズオ・イシグロの第3作目である。英国の文学賞の最高峰、ブッカー賞を受賞している佳作だ。そして、アンソニー・ホプキンスが主演で映画にもなっている。

 自動車旅行を楽しむ執事スティーブンスによる回想を中心に進むストーリーは、読者を知らないはずの古き良き時代の英国へと連れて行ってくれる。そして、スティーブンスのプロフェッショナリズムに感心するとともに、その仕事ぶりゆえに失ってゆくものに切なさのようなものを覚えるのだ。

 この小説を語る時に、「落日の英国」ということを誰もが指摘することだろう。屋敷はアメリカ人に買われ、かつての持ち主は英国中に非難されたまま亡くなっていった。そして、名執事であるスティーブンスも確実に年老いていく。これは静かで確かな悲劇だ
 時に人は、夕日を眺めていると感傷的になってしまうものである。スティーブンスは、夕日を眺めるように過去を振り返り、読者もまた同じようにして小説を読んでいる。これがカズオ・イシグロのマジックであろう。「夕日を眺めるように読める小説」とは、実に贅沢な小説であろうか。パラパラと読むには惜しい、それこそスティーブンスのドライヴのようにのんびりと読みたい作品だ。

 蛇足。1954年に長崎で生まれ、60年に渡英、1983年に帰化したカズオ・イシグロによってこの小説が書かれたということは興味深い事実である。
 逆に、日本を描いた作品も書かれているとのことなので、そちらも読んでみたい。

B000CEGVV6日の名残り コレクターズ・エディション
カズオ・イシグロ ジェームズ・アイヴォリー アンソニー・ホプキンス
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2006-02-01

by G-Tools
posted by こまごめとなり at 15:04| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/27380854

この記事へのトラックバック